雨霞 あめがすみ

過去に書き溜めたものを小説にするでもなくストーリーを纏めるでもなく公開します。

水色の日傘 26

勿論、萩野にそれ程の悪気があった訳ではない。どんな関係か知らないが、いっしょに居る中学生女子は想像するにどうやら彼女だ。その前だから多少の威勢を張っている。 しかし小学生とはいえ他の女子たちが大勢来たら、その前であまり怒りを見せていてはみっ…

水色の日傘 25

高く上がったボールは、それを見上げて追いかける太田の遥か頭上を飛んで、公園の周囲に設置されている植え込みの中に飛び込んだ。一瞬、キャッという悲鳴らしきが聞こえた。植え込みにはちょっとしたギリシャ風のテラスが構えられていて、茂みに囲まれるよ…

水色の日傘 24

色々と雑事があって、ついつい間延びしました。どこまで書いていたのかも忘れてしまいました。思い出しながら書いております。 ------------------- 中学生は塁審をしている。本来の企みであれば徳田の前で水口とイチャイチャさせて徳田の集中力を削ぐつもり…

水色の日傘 23

四組は得点は入ったがその後の攻撃に失敗した。普通にあることだからどうということはないが惜しいチャンスだった。こんな後はやられる可能性が高い。 萩野が橋田にひと声かけた。 「相手は一番からや、仕切り直してきよるやろ、気い付けや」 「わかってるが…

水色の日傘 22

三組は既に白けムードだった。徳田がこの態度では如何ともし難い。あまり動じない雰囲気の長谷川はともかく浅丘と福田はかなりムカついた。安井も呆れ顔だ。 それでもけじめを付けようと浅丘が福田の尻を叩いた。 「よし、気い入れ直すで、ビシッといこ」 福…

水色の日傘 21

ツーストライクとっているので、なるべくなら橋田は福田で終わらせたい。一球遊んでも良いが福田にそれ程の打力はない。二球カーブを振らせているが、今度はインコースに力の入ったストレートを投げた。 福田は待っていたのか、これを力任せに振った。しかし…

水色の日傘 20

強いライナー性の打球がライン上を飛んだ。誰もがヒットだと思った。しかし井筒は咄嗟にライン側に移動し、ジャンプしてこれを捕った。動作が事も無げだったので、あまり動いたようには見えなかった。しかしこれまで守っていた黒田であったら、打球の勢いに…

水色の日傘 19

橋田は腰を曲げて、膝に手をついたまま何事か考えているのかしばらく動かない。 萩野も構えたままじっと動かない。 徳田が焦れた。タイム! 「長いやんけ」言いつつ徳田は私を睨んだ。 私は橋田に向かって叫んだ。「早く投げるように」 「焦らせてもあかんで…

水色の日傘 18

少々雑事があって間延びしました。きっと誰も読んでいないだろうと思っていたのですが、応援マークが付いていたりして意外に思っており、感謝しております。 ではお読みください。 -------------------------------------------------- 私は少々意地悪く盗み…

水色の日傘 17

三組のキャッチャー長谷川は、体が平均より一回り以上大きい。しかも太り気味だ。あれこれと言葉を発する性格でなく、私からも距離のある存在だった。同じクラスになったこともなく、あまり言葉を交わしたこともない。 そんなのがどうして野球チームに入って…

水色の日傘 16

一番バッターの橋田は、いつもよりバットを短く持っているように思えた。しかし三組の誰もそれに気付かない。 ピッチャーの福田は初級から悠々とストライクをとってきた。ほぼ真ん中だったが、橋田は見逃した。どことなく前回より余裕があるように見えた。 …

水色の日傘 15

年が明けました。頻繁な更新ではありませんので、遅れ馳せながら、令和三年おめでとうございます。 以下本文です。今年も宜しくお願いします。 ---------------------------------------------------------- 三組のメンバーは、徳田を抜きにしても以前から四…

水色の日傘 14

いよいよ遂にその時がきた。 私は学校から戻って昼食もそこそこに、家にようやく一本ある古びた兄のバットを持って公園に駆け出した。 マネージャーの最も大事な役割は場所取りだ。もし誰かに先んじられていたら、その連中が試合を終えるまで待たねばならな…

水色の日傘 13

井筒は投げても凄いのだった。右投げ左打ち。それでけでも小学生とは思えないが、ストレートも伸びるしカーブもちゃんと曲がって見える。 現在の少年野球では変化球は禁止のようだが、当時は近所に少年野球チームなどなかった。あるのはクラス単位でできる草…

水色の日傘 12

篠田が声をかけてきた。「チーム、どんな具合や」 「空き地で練習してるがな、結構気合入ってるで」 「そうかいな、結構なこっちゃ」 篠田ははははと笑った。聞けば三組は全然練習していないという。 「大丈夫なんかそれで」 「ええんや別に、ムキになってる…

水色の日傘 11

誰も知らなかったが、井筒には四つか五つ違いの兄がいて、これが甲子園も望める有力高校の選手だった。 教え魔で、しょっちゅう高校の練習グランドへ井筒を連れ出して教えまくった。それが結構厳しく時には泣かされるので井筒は上手くはなったが野球にはすっ…

水色の日傘 10

それにしても上手すぎる成り行きだ。いったい篠田はどうやったのだろうか。 訊いてみると、ことの成り行きは意外だった。 「あのな、俺も思うてもみんかったわ」 篠田はしかめっ面でもなく笑うでもない顔を浮かべて唸るように呟いた。 「あいつな、他のメン…

水色の日傘 9

☆今回は少し長いです。お付き合いください。☆ ------------------------------------------------------- 篠田に影響された訳ではないが、噂と言ってもアリバイは作っておかねばならない。幼い頭脳で健気にも考えた私は、月曜日の休み時間、直ちにピッチャー…

水色の日傘 8

ママさんと子供の姿が見えなくなっても、篠田と私は揃ってベンチに腰を下ろしてぼんやりとしていた。すぐに帰る気にはなれなかった。 私は眉毛がママさんを見たときに一瞬何かを考える風だったのを思い出した。あれは何だったのか。誰かに似てるとか、どこか…

水色の日傘 7

「このごろあかんわ、身体が動かへん、明日は大変やで」 「ミットもないからみっともないわ~」 「そんなしょうもない洒落、誰が笑うかいな」 あれこれ言いながら集まってきたメンバーを見ると、遠くで眺めるのとは違って皆それなりに歳をとっていた。余計な…

水色の日傘 6

「おっちゃーん、おっちゃんらどこから来たん」 私は、ゲームの成り行きを見守っている四角い体型の男の後ろから声をかけた。工場の作業着のようなのを着たその人は守備にも攻撃にも着いていないようで、どうやら見るだけの付き合いのようだった。 男は振り…

水色の日傘 5

私は帰宅してからも、それが気になって仕方がなかった。もし自分の母親が家計を支えるために外でかき氷などを売り始めたらどう思うかと。 大体私の母は、常日ごろお嬢さん育ちを自慢していてことあるごとにそれが出る。他にも待っててくれた人が沢山いたのに…

水色の日傘 4

「どこから来てるんやろ」 既にママさんの姿も見えなくなった公園の出入り口を眺めながら、私は呟いた。 「さあな、遠いとことしか言わなんだけど、小さい女の子連れてるからな」 乳母車を押してバスに乗ることは多分ない。だいいち帰って行った方向はバス停…

水色の日傘 3

「ごめんね、ちょっと味が変わってるでしょ」 私たちの視線を感じたママさんは、味に関して、ちょっと申し訳なさそうな表情をした。私たちの視線を、清潔に深読みしたようだった。 「そんなことないよ、ごっつうまいわ、なあ」 私は篠田に同意を即した。篠田…

水色の日傘 2

近寄って見ると、とても外でカキ氷売りをするようには見えない品の良さそうな若いママさんが、幼い女の子と並んでベンチに座っていた。揃えで作ったのか、よく似た水色の花柄のノースリーブのワンピースを着ていた。 すぐ横に乳母車が置かれていて、淡い水色…

水色の日傘 1

私が小学生だったころ、放課後の遊びといえば、専ら付近に点在していた池でのザリガニ釣りや公園での草野球だった。 私はザリガニ(当時関西ではエビガニといっていた)釣りは割りと上手かったのだが、どういうわけか魚釣りは苦手で、他人と同じことをやって…

水色の日傘 梗概

小学生当時、苦手な公園野球のメンバーに無理やり組み入れられて適当に恥をかいた。 試合後、相手チームの篠田と愚痴った。篠田もやはり運動音痴だ。愚痴を切っ掛けに親しくなれそうだった。 すると、公園の端っこに子連れの若いおママさんがかき氷の店を広…

鉛色の出来事 終章 後記

奇妙なのだが、長谷に関する私の記憶はここで全く途絶えている。そこからまるで、刃物で切られた糸のようにぷっつりと、以後はまったく、かけらのような記憶もない。 暑い時期に差し掛かって、プールの授業も始まったが、長谷が水に浸かっている姿を、私は見…

鉛色の出来事 本編 十二

自分から接近して置いて遭遇はないだろうが、私にしても長谷という得体の知れない未知のものに初めて遭遇したようなものだった。 以後の成り行きはもう覚えていないが、後はもう話すこともなく無言で適当な絵を描いたに違いない。 絵は後で必ず先生に講評さ…

鉛色の出来事 本編 十一

まったく意外と言うしかなかった。 井植は、この家の前で長谷の姿を何度か目撃したと言う。住んでいるのだと思ったらしい。 すると我が家は長谷一家と入れ替わるように入ってきたのだろうか。 私は思わず井植に問うた。 「それ、いつ頃の話なん」 「いつ頃言…