雨霞 あめがすみ

過去に書き溜めたものを小説にするでもなくストーリーを纏めるでもなく公開します。

2022-01-01から1年間の記事一覧

水色の日傘--43

橋田は一球目外に投げた。はっきりとわかるボール球で、徳田はまったく動く気配なく見送った。 「おいおい、歩かせるつもりやないやろな」 徳田はチロッと萩野に視線を送った。萩野は返球しながらも徳田を刺激するように言う。 「さあな、お前に馬鹿にされた…

水色の日傘--42

コースは真ん中だがやや低め。高さは吉田のつもりとはちょっと違った。しかし出かかったなにかみたいな話で、もう止まらない。普通なら見送るだろう球を、吉田は腰を屈めるようにして短く持ったバットを鋭くぶっ叩くような感じで振った。 パコン!と音がして…

水色の日傘 41

振り返ると、差した日傘の水色の陰のなかでママさんは穏やかな笑顔を浮かべていた。商売道具を乗せた乳母車を片手で押して、子供がスカートの裾をしっかり握っている。そのすぐ横に篠田がまるで兄貴のような顔をして一緒に歩いてくるではないか。 ぬぬ!っと…

水色の日傘--40

「おう篠田、ママさんきたか。それにしてもゆっくりやな」 「贅沢言うたらあかん。子供連れてんねやで、そないスタスタ歩けるかいや」 「それもそや」 私は相槌を打った。 「それにな、氷がどんどん溶けて、一旦買いに行かはったんや」 「成る程、そんなこっ…

水色の日傘--39

徳田は、ややためらいを含みつつ語り掛けてきた浅丘の目を見た。 「きょうはええ試合やで」 わざわざ寄ってきて何の話かと思いつつも徳田は頷く。「そやな…」 「こんなええ試合は滅多にないで」 「俺もそう思う。四組も前とは大違いや。こんなに点取りよると…

水色の日傘--38

「浜田!」 プレーをかけようとした時突然後ろから呼ばれた。 「お、篠田」 走ってきたのだろう、篠田は息弾ませて言った。 「ママさんくるで」 ひとつ手柄を立てたような得意顔をしている。 「おおそうか、良かった。今どこに居てはんねん」 「こっちへ向か…

水色の日傘--37

呼ばれた萩野が駆け寄って問うた。 「なんやどないした」 いつものように井筒は小声で答える。 「うちに補欠はなかったんかな」 「そうや、前に岸下がおらんかったから浜田が入ってたんや。浜田はあの通り今日は主審や」 「ああそうやった、それやったらええ…

水色の日傘--36

五回裏の四組の攻撃は五番の黒田からだった。黒田は当たり外れが多くて楽しめる人物だったが野球に於いてもそうだった。先程はまぐれのホームランをかっ飛ばして一躍本日の有名人になったが、そんな時でも打席にはあまり真剣に立っているように見えない。い…

水色の日傘--35

徳田が二塁に居るところから試合再開。高田はそこそこは打てるので一応は得点のチャンスだ。 萩野が腰を下ろして構えながら一声発した。 「ようやく秘密会議終了や、気い入れ直すでえ」 二三回バットをユラユラさせて、ヤレヤレと言う感じで高田もジョークを…

水色の日傘--34

篠田が思わせぶりに言うから、もしかしてママさんになにかあったのかとドキッとした。 「待て待て慌てるな。あのな、俺、心配になってママさんほんまにきょう来てくれるやろか、いったいどこから来るんやろか、ちょっと心配になったんや。一旦そう思うたら気…

水色の日傘 33

色々としたことがそれなりにありまして、随分更新をさぼりました。もうどこまで書いたのか忘れてしまいました。無事に続くのかもあやしくなりました。 本編どうぞ。 ----------------------------------- 徳田は二塁にあってバッターは長谷川だ。本当の要注…