雨霞 あめがすみ

過去に書き溜めたものを小説にするでもなくストーリーを纏めるでもなく公開します。

水色の日傘 25

高く上がったボールは、それを見上げて追いかける太田の遥か頭上を飛んで、公園の周囲に設置されている植え込みの中に飛び込んだ。一瞬、キャッという悲鳴らしきが聞こえた。植え込みにはちょっとしたギリシャ風のテラスが構えられていて、茂みに囲まれるように椅子代わりのオブジェが幾つか点在していた。きっと座っていた誰かの近くにボールが落ちたのだろう。

ノーバウンドでここに飛び込めばホームランの取り決めだ。中学生はその決まりを知らないが想像はつく。一応はレフト側に走りつつ、ぐるぐると大きなジェスチャーでホームランを宣した。水口の前でええかっこしたいのはこの中学生も同じなのだった。わかっては居るが、意外にわざとらしい奴だなと思いつつ、私も負けずに右腕をぐるぐると回した。

 徳田がホームを踏んだ。全然喜んで居ない。まあそうだろう。打ったのは自分ではない。本来は自分が打つ予定だった。

続けて長谷川が、子供にしてはの巨体を揺さぶりながらユタユタドスドスとした感じでホームインした。

「長谷川くん、やるやんか!」三組女子たちのやんやの喝采

「えらい損した。言わんかったら良かった。ホンマに打ちよってからに」

萩野が長谷川に、半ばしかめ面、半ば苦笑いを向けてぼやいた。あまり表情を出さない長谷川も、一応は--へへへ--の顔を浮かべて満更でもない。長谷川の雰囲気は後のドカベンと似通っていた。

 

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水色の日傘 24

色々と雑事があって、ついつい間延びしました。どこまで書いていたのかも忘れてしまいました。思い出しながら書いております。

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中学生は塁審をしている。本来の企みであれば徳田の前で水口とイチャイチャさせて徳田の集中力を削ぐつもりだった。このままだとそれはうまく行かない。

しかしここに至って、それはそれで良いじゃないかという気がしてきた。いざここに来てみるとそれはフェアじゃないという気がしてきたのだ。

水口はそこに居て四組を応援しているが、そっちに徳田の気が散るのはしょうがない。仕組んでも仕組まなくても同じことだ。だから、敢えてあれこれを策す必要はない。成り行きのままで良い。わざとらしいことをせずとも、今日は練習の成果もあって四組は良い試合をしているではないか。

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水色の日傘 23

四組は得点は入ったがその後の攻撃に失敗した。普通にあることだからどうということはないが惜しいチャンスだった。こんな後はやられる可能性が高い。

萩野が橋田にひと声かけた。

「相手は一番からや、仕切り直してきよるやろ、気い付けや」

「わかってるがな、俺は残りの回全部で三点までに抑えるつもりや」

橋田にしては知性のあることを言った。

「よしよし、それくらい柔らかい方がええな」

萩野はポンと橋田の肩を叩いてキャッチャーの位置に戻った。

しかし一回目の打席と違ってバッター新井は今度はしつこかった。四組のバッティングを観察したのだろう、しぶとく当てるバッティングになっていた。結局ツーストライクを取られてから五球ファールで粘り、次の球をセンター返しに打って橋田が避けながら出したグラブを弾いた。これをセカンドの福永が捕ったが一塁には投げるまでもなく間に合わなかった。 ノーアウト一塁。 

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水色の日傘 22

三組は既に白けムードだった。徳田がこの態度では如何ともし難い。あまり動じない雰囲気の長谷川はともかく浅丘と福田はかなりムカついた。安井も呆れ顔だ。

それでもけじめを付けようと浅丘が福田の尻を叩いた。

「よし、気い入れ直すで、ビシッといこ」

福田は何度も頷いた。それぞれ守備位置に戻ろうとしたとき、浅丘が振り返って今一度福田に歩み寄った。

「あんな奴ほっとけ、あんまり気にすんな、それより、四組はどっかでコツを見つけたみたいやな、もしかしたらあいつかも知れん」

浅丘はボックス付近でバットを持って突っ立っている井筒をチロッと見た。福田も井筒を見た。何故か左ボックスに居る。運動音痴の筈だった奴がメンバーになり、チームの雰囲気も違っている。

「わかってる、こっちに集中するわ」

福田が唇を噛んで答えると、浅丘は元気つけるようにもう一度福田の尻を叩いた。 

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水色の日傘 21

ツーストライクとっているので、なるべくなら橋田は福田で終わらせたい。一球遊んでも良いが福田にそれ程の打力はない。二球カーブを振らせているが、今度はインコースに力の入ったストレートを投げた。

福田は待っていたのか、これを力任せに振った。しかし打球はやや詰まり気味のサードライナーになった。櫻井がこれを難なく捕ってスリーアウト。ランナー二人居たが残塁に終わった。

三組女子からため息が漏れた。徳田から始まった好打順だったが無得点。ここまでの展開は橋田にしては上出来と言えた。

戻ってきた橋田の尻を萩野がポンと叩いた。「ええがな橋田、きょうは行けるで」

「いや、まだ一回二回や…」言いつつ、橋田もまんざらでもなかった。 

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水色の日傘 20

強いライナー性の打球がライン上を飛んだ。誰もがヒットだと思った。しかし井筒は咄嗟にライン側に移動し、ジャンプしてこれを捕った。動作が事も無げだったので、あまり動いたようには見えなかった。しかしこれまで守っていた黒田であったら、打球の勢いに押されてグラブを出すのが遅れたかも知れない。

徳田は走りかけて止まった。そんなはずはないとでも言いたげな顔をして、戻るときも一度二度振り返って井筒を見た。先程の守備もある。きょうまで一度も見かけたことがなかったあいつは、ちょっと違うなと、そんな認識を持ったに違いない。井筒は井筒で、徳田はアウトコースも弱くなさそうだと判断を切り替えたかも知れない。

「アウト、ワンアウト!」

私が宣する前に中学生が大きな声で宣した。こんな分かりきったところでジャッジしなくても、余計なことをしてくれると、内心思った。

キャッチャーの長谷川が五番の打席に着いた。私は、案外こいつが鍵になるような気がしてならないのだった。

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水色の日傘 19

橋田は腰を曲げて、膝に手をついたまま何事か考えているのかしばらく動かない。

萩野も構えたままじっと動かない。

徳田が焦れた。タイム!

「長いやんけ」言いつつ徳田は私を睨んだ。

私は橋田に向かって叫んだ。「早く投げるように」

「焦らせてもあかんで、俺には通じひんで」

徳田は言いつつ、ボックスから外れて二度三度素振りをくれた。いかにも格好を決めていて、水口の前だとは言え、いよいよ嫌らしい感じだ。

「プレー!」

徳田は構え直した。橋田はようやく振りかぶって投げた、と思ったら徳田の頭の上を行くような暴投。徳田は「うわっ!」と悲鳴をあげてしゃがみ、萩野が飛び上がってどうにかこれを捕った。

徳田は起き上がって橋田にきつい視線を投げつけたが、投げた橋田はマウンド付近で転がっていた。

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