雨霞 あめがすみ

過去に書き溜めたものを小説にするでもなくストーリーを纏めるでもなく公開します。

鉛色の出来事

鉛色の出来事 終章 後記

奇妙なのだが、長谷に関する私の記憶はここで全く途絶えている。そこからまるで、刃物で切られた糸のようにぷっつりと、以後はまったく、かけらのような記憶もない。 暑い時期に差し掛かって、プールの授業も始まったが、長谷が水に浸かっている姿を、私は見…

鉛色の出来事 本編 十二

自分から接近して置いて遭遇はないだろうが、私にしても長谷という得体の知れない未知のものに初めて遭遇したようなものだった。 以後の成り行きはもう覚えていないが、後はもう話すこともなく無言で適当な絵を描いたに違いない。 絵は後で必ず先生に講評さ…

鉛色の出来事 本編 十一

まったく意外と言うしかなかった。 井植は、この家の前で長谷の姿を何度か目撃したと言う。住んでいるのだと思ったらしい。 すると我が家は長谷一家と入れ替わるように入ってきたのだろうか。 私は思わず井植に問うた。 「それ、いつ頃の話なん」 「いつ頃言…

鉛色の出来事 本編 十

結局私は大風邪をひいて寝込んでしまった。 落っことしたサバの泥を母が苦労して取って、帰宅した父の食事の用意もそこそこに、私は一度潜り込んだ布団から這い出て、母に付き添われて医者へ行った。 なにかあると近所の子供は大方そこに行くことになってい…

鉛色の出来事 本編 九

私は教諭に一礼して教室を出た。教諭はまだ座ったままでいた。残務整理があったのだろう。 その方が良かった。教諭と一緒に廊下を歩くなんてまっぴらだった。 廊下か、もしかしたらその辺に中森が居るかも知れないと思ったが、居なかった。さっきは気のせい…

鉛色の出来事 本編 八

ようやく席に戻されたとき、授業終了のベルが鳴った。 終了の挨拶をした後、数人の掃除当番だけが残って、掃除を始めた。 私は当番ではなかったが、教諭は私にも掃除を手伝うように命じた。 教諭は何故か職員室に戻らずに机に座ったままだった。

鉛色の出来事 本編 七

虹教諭は問うた。表情を変えずに、普通の声よりも低く抑えて、それがむしろ前段階を楽しんでいるような嫌らしさが、私には感じられた。 「素振りとは、どんな素振りですか」 「どんなって…」 戸惑っていると、教諭は焦れた。顔にも険しさが漂った。 私はうつ…

鉛色の出来事 本編 六

毎週水曜日の午後、週に一時間だけ設けられている道徳の授業があった。 私は知らぬが、一部の人たちがどのような理由か廃止論を叫んだことがあるようだが、授業は今も存続しているのだろうか。 簡単に言えば正しい行いとか努力とか、日常の出来事対する考え…

鉛色の出来事 本編 五

正門前には学校指定の文具屋があって、登校時にはわざわざ店の前にテーブルを置いて商売をしていた。毎朝子供たちでいっぱいだった。 しかし私は、ここでは買うことはあまりなかった。どちらかといえば、道路の向かいの、もうひとつあった小さな文具屋で買っ…

鉛色の出来事 本編 四

虹教諭が、何故私に反感を持つようになっていたのか、歩きつつ、ぼんやりとそんなことを考えた。 小学校四年生は、先生がああだと言えばそれに逆らえないガキタレでしかない。悪ガキでさえなかった私に、外部から学校に苦情を持ち込まれたこともない。 そん…

鉛色の出来事 本編 三

久しぶりに訪れた大阪は、街そのものが圧縮されたような、押し詰められた箱庭のような感じを受けた。 オフィス街や新しく開発された街並みは別として、古いまま残っている住宅街は、狭い道路を挟んで肩を寄せ合って並んでいるような、やや大袈裟に言えばプラ…

鉛色の出来事 本編 二

長谷をはっきりと認識したのはいつだったろうか。 そうだ、あの時…。 長谷まり子。はっきりとしないが、四年生になった時のクラス替えで多分いっしょになった。 長い間洗ったこともなさそうな汚れた服を毎日着続け、目ばかり大きくてキョトンとして、可愛い…

鉛色の出来事 本編 一

キチっとまとめていませんが、ちょっと腱鞘炎気味なので、本編を少しずつ公開して行きます。 お読みください。 鉛色の出来事 本編 一 ある日ひょっこりと、大阪から小学校の同窓会の案内が舞い込んだ。住所など教えた記憶はないが、たまに連絡を取っているの…

鉛色の出来事 梗概

始めたばかりで、はてなの感触がまだもう少しというところです。しかし記事は書けますので、ボチボチ行こうと思います。 これは長編の一部として書いたものですが、短編としても構成できますので、これを関する梗概を取り合えず最初に公開します。 鉛色の出…