誰も知らなかったが、井筒には四つか五つ違いの兄がいて、これが甲子園も望める有力高校の選手だった。
教え魔で、しょっちゅう高校の練習グランドへ井筒を連れ出して教えまくった。それが結構厳しく時には泣かされるので井筒は上手くはなったが野球にはすっかり嫌気がさした。家でもナイター中継すら見ることもなく、学校でも野球など関心もない風をずっと装っていたようだ。
余程うんざりしていたのだろう、でなければエエカッコシイが普通の子供時代で自分の能力を隠すなど珍しいことだった。
「わからんもんや」わっはっはと、萩野は豪快に笑った。「灯台元暗しや」
「ピッチャーもいけるんか」橋田が言った。
「今度は絶対に勝たなあかん、特に徳田に打たせたらあかん。俺が打たれたらお前が投げてくれ」
「そんなん…」井筒は戸惑った。橋田にも面子があるはずだ。
「俺が頼むと言うてるんや。野球はチームワークや、つまらんことにこだわってる場合やない」
橋田にしては驚愕するほどの異常な成長だ。
しかし、なるほどという理由があればガキタレでも納得する。それじゃ上手いのは当然だ。
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